夏目友人帳伍第9話「険しきをゆく」のあらすじと感想です。
ネタバレを含みますのでまだ見ていない方はご注意下さい。
険しきをゆく
夏目の日課
いつものように妖怪に襲われる夏目。やりすごそうとした橋の下で傘をかぶった小さな妖を踏んでしまう。
襲ってくる妖怪を何とか振り切った夏目。だがチビ妖はかぶっている笠を傷つけられたことを怒る。
「どうしてくれるのだ。朱遠様はとても高貴なお方なのだぞ。このワイルドな面構えでは引かれてしまうわ」
笠を弁償する代わりにしばらく子分となって働くことを要求するシイタケのようなチビ妖。お散歩コースから現れて合流したニャンコ先生はそれを突っぱねようとしたが、夏目は流されるように従ってしまう。
シイタケ妖と福耳の老人
シイタケ妖は朱遠という人物に会うために夏目に手伝いを要求する。
「で、その朱遠様っていうのは?」
シイタケ妖が説明する。ある日、腹をすかした獣に食べられそうになった自分を助けてくれたのが朱遠だと。
「ああ、またやってしまった。獣には獣の事情がある。それを、自然を見過ごせぬなどまだまだ私は…」
それがしいたけあやかしと朱遠の出会いだった。
それ以来、森の中でたびたび出くわして、釣りをしたり流れ星を眺めたりと一緒に過ごすことが増えていった。 浮世離れした言動をよく口にしていた朱遠。そしてある夜のことだった。
「友よ、世話になった 。わが一行は今宵この地を立つ。私は修行の旅の身。仙術の道へ戻る。道は険しく二度とまみえまい。 私は朱遠、さらばだ」
朱遠は雲に乗って行列と共に空の彼方へ消えていった。
「以来、朱遠様一行を探し回って旅をし、修行の順路で今日の夕刻そこの丘を通ると耳にしてやってきたのだ」
そのチャンスを活かして何食わぬ顔で行列に加わるつもりだ、と話すシイタケ妖。みすぼらしい姿を連れて行ってもらえる美しい姿に変えるように夏目に手伝いを要求した。
大きな福耳を持った謎の老人。太公望のように針なしで釣りをしたりして、めちゃめちゃ徳の高そうな存在です。仙術と言うからには仙人とか神様みたいな存在ですかね。
ニャンコ先生とシイタケ妖はお互いに、椎茸だのあんころ餅だの言い合っています。
ドレスアップ
色鮮やかな花や川底に光るきれいな石、派手な形の木の実。シイタケ妖はとにかく身を飾るものをひたすら集めようとしていた。その途中で、巣から落ちた蜘蛛を朱遠と同じように助けてやる。口の悪さと違い優しい心の持ち主のようだ。
シイタケ妖に振り回される夏目にニャンコ先生は言った。
「格好の問題ではない。所詮住む世界が違うのだ。一緒に居たいなどとあがいてもどうにもならんこともある」
夏目の脳裏に今まで出会った妖怪たちの顔が浮かんだ。そして塔子と滋の2人の顔も…。
確かにシリーズ伍のエピソードは、妖怪と人間の出会いと別れを描いたものが多いですね。今期のメインテーマになっているんでしょうか。
アケビを持ってきてくれたり蜘蛛を助けたりと優しい性格のシイタケ妖。修行中の朱遠様もこの性格に心癒されたのかもしれません。
貢物と葛藤
1人で花を集めるしいたけ妖は、森の妖怪が朱遠一行について話しているのを耳にする。
高価な貢ぎ物を捧げれば願いを叶えてくれるかもしれない。書物や酒、美味な人の子など… 。
心を揺らすシイタケ妖をニャンコ先生は木の陰からそっと見つめていた。
夕刻になり、花で着飾ったシイタケ妖は夏目たちとともに朱遠一行を待っていた。その場を離れようとする夏目を慌てて引き止めるシイタケ妖。だが、 優しく笑う夏目の顔を見てその心が揺れ動いた。ニャンコ先生は何かを言いたそうにしている。その時、あたりに錫杖の音が鳴り響いた。
友
空気が変わる。あたりは神々しい光で目を開けてられないほどの眩しさに包まれた。光の中心に行列が現れる。
興奮するシイタケ妖をニャンコ先生が止める。
「シイタケやめろ。下手したら不敬とみなされる。取り巻きがお前など寄せ付けぬぞ」
制止を振り切って行列の前に飛び出すシイタケ妖。行列の歩みが止まり、その中のツノの生えた男が言った 。
「なにやつよ。これは朱遠様の行である。汚すは許さぬ」
シイタケ妖は自分は三ツ皿だと名を明かす。そして朱遠の列に加わることを願い出た。
「何も持たぬが、何を捧げる?」
鋭い眼光で問われて言葉に詰まる三ツ皿。夏目の方を振り返り、そして力なく言った。
「何も…何の捧げ物もありませんが、朱遠様に拾っていただいたこの命、おそばでご恩返ししたいのです」
修行にも励むと土下座して頼む三ツ皿。その時、懐かしい声が自分の名を呼んだ。
「情けをかけてすまなかった。言ったように我らが行く日はあまりに険しき道、連れては行けぬ。友よ、帰られよ」
錫杖の音が響いて、行列は茜色の空の彼方へと消えていった。声を出して泣く三ツ皿の頭にそっと手を置く夏目。
「小物だから連れて行けぬのなら大物になるよう修行する」
姿かたちだけではなく内面も鍛えて朱遠のそばにいるのにふさわしい存在になると誓う三ツ皿。その時、先程のツノのある男が再び夏目たちの前に姿を現した。三ツ皿に分厚い本を渡す。
「われらはここに書かれた修行を終えて参列しておる。先程は冷やかしとからかって申し訳ない。覚悟があるならこなしてこられよ」
ツノの男はそう言って姿を消した。
三ツ皿は重たい本を抱えて希望に満ちた目で夏目に向かって言った。
「きっとやれる、そうだろう?」
一見怖そうなツノの男も、高貴な修行に同行しているだけあってチャチな妖怪とは訳が違いました。ひょっとすると三ツ皿の心を読んでいたのかもしれませんね。
三ツ皿が捧げ物で悩んでいたことを夏目に詫びようとする時に、素早く口を挟んで言わせなかったニャンコ先生からも優しさが溢れています。
まとめ
今回もいいお話。年賀状に登場しそうな七福神のような人(?)たちが現れました。
妖怪のような存在でも正しい心で修行すれば、いつか仙人のような存在になれるのでしょうか。もし仮に貢物として夏目を捧げていたとしたら、どんな展開になっていたのか。ちょっと恐ろしい気がします。
踏みとどまった三ツ皿はきっとあの行列に加われるでしょう。