夏目友人帳 伍 第10話「塔子と滋」のあらすじと感想です。
ネタバレを含みますのでまだ見ていない方はご注意下さい。
塔子と滋
カラスの記憶
夕食の準備をしている塔子。
「塔子さん、雨です」
帰宅した夏目の声を聞いて、慌てて洗濯物を取り込む。
「ちょうどカラスが鳴いて空を見上げたら雨が降ってきてそれで…」
夕食時に、夏目の言葉を聞いて塔子は以前にもこんなことがあったと思い返していた。
それはまだ、滋と塔子が2人で暮らしていたときのこと。
夫婦2人では少し持て余す広い家で幸せに暮らしていたある日。家の裏手に立て掛けてあった道具に、カラスが挟まっているの見つけた塔子。急いでどかしてやるとカラスは元気よく飛び立っていった。
「よかった、大丈夫そうね。 気をつけて帰りなさいね」
幸せで穏やかな毎日が過ぎ去っていった。
滋は、若い時に世話になった遠縁の親戚の葬儀に出席していた。弔問客のひそひそ話が聞こえてくる。ふと中庭を見ると中学生ぐらいの少年が寂しそうに、そして所在なさげに座っていた。
本当に優しい夫婦ですよね。普通はカラスを近距離で見るともっと怖がりそうなものですが。
滋も邪険にされている少年を見て、憤りを感じているようです。
つがい
葬儀から帰ってきて以来、滋がどこかそわそわしている。考え込んだり使っていない部屋を急に掃除したりと様子がおかしい。
「まさか引越し?」
一度はそう思ったものの、すぐに打ち消す塔子。もっと便利なところに引っ越すこともできるけど、たぶんこの家からは2人とももう離れる気持ちにはならないだろう、と。
カラスの鳴く声が聞こえて、勝手口から外を覗いてみる塔子。雨が降り始めたことを知り慌てて洗濯物を取り込む。
「カラスが雨を知らせてくれたのよ。偶然なんだろうけど、一度助けたことがあるカラスでね」
塔子は帰宅した滋にそう話した。滋曰く、カラスは賢いのでつがいになったらいつもそばにいることが多く、決めた相手と一生を共にする。だから一羽のカラスはまだ相手に出会えていないか相手に先立たれたかのどちらかだという。
「いつも一人で飛んでいるあのカラスは、一体どちらなんだろう?」
中学時代の友達に誘われて、旅行に出かける塔子。旧友と楽しく過ごしながらも、つい留守番している滋のことを考えてしまう。
「ダメね私。随分と寂しがり屋になったみたい。昔はもっと辛いことも苦いこともあったのに。幸せがこんなにも静かに2人の間に降り積もって…」
滋に会いたい寂しい気持ちが、あの一羽のカラスを思い起こさせる。自分と茂、お互い1人になってしまった時に生きていけるのだろうか。
「ああ、早くあの人のところに帰りたい」
塔子の目に涙があふれた。
二人の家
旅行から帰った塔子に、滋から大事な話があると言う。
葬儀に行った時に、引取先を転々としている14,5歳の少年の話を耳にしたことを話す。あまり良い扱いを受けてはいないであろうその少年を引き取りたいのだと。
「もし塔子さんが許してくれるなら、その子を預かりたいと思っている。すぐに答えなくていい。私もよく考えてやっと塔子さんに話しているんだ。2人の大事なこの家のことだから」
丁寧に、そして優しく話す滋を見ていたら、塔子の目からは知らず知らずのうちに涙が溢れてきた。
おとなしいけど時々情緒不安定になるという少年、夏目貴志。藤原家にやって来た少年がぎこちなくも笑顔を作ろうとしてくれている姿を見ると、夫婦2人で守ってあげたいという思いが込み上げてきた。
二羽のカラス
洗濯物を干す塔子が、鳴き声につられてふと木の上に目をやる。そこには相変わらずひとりぼっちのカラスがいた。
「何を見ていたんですか?」
学校から帰宅した夏目が声をかけてくる。塔子は木の上に止まっている一羽の カラスを友達だと紹介する。
「二羽いますよ。ほら、枝で見えにくいけど。すごいな、白いカラスなんているんですね。アルビノってやつかな、初めて見た。すごくきれいですよ」
飛び立つカラスに目をやる塔子。
そう、よかった…。1人じゃないのね。それはきっと美しく、白く光って見えにくいのね。
まとめ
心がほっこりする素晴らしいお話でした。
最初はぎこちなかった夏目都の会話も、最後のシーンでは打ち解けた様子が口調にも表れていました。
白い鳥の話を聞いて、おかしなことを言う子だと取らず、美しく見えにくい鳥がいたと取るところには、その深い愛情に感動すら覚えます。
夏目友人帳はじーんとする話が多いですが、その中でも格別のエピソードだと思います。
次回も楽しみです。