3月のライオン第11話「ゆく年/くる年」のあらすじと感想です。
ネタバレを含みますのでまだ見ていない方はご注意下さい。
ゆく年/くる年
風邪
年内の対局をすべて終えた大晦日。
零はひどい熱を出して自宅で寝込んでいた。食事どころか水分も取れない有様で、風邪薬を買いに外出する気力もなかった。
熱に浮かされて朦朧としていると、呼び鈴の音が耳に入る。
「れーいちゃーん」
扉の外には、マスクで完全防備した川本三姉妹が立っていた。
「ああもう、やっぱり風邪引いてた」
零をひと目見てそう言うと、部屋に突入して枕や携帯、財布など最低限のものだけ確保する。パジャマのままの零に上着を羽織らせて、タクシーで病院へ連れて行く。
「インフルエンザだったらここで隔離&看病。ただの風邪だったらうちへ連れて行きます」
ただの風邪といってもこじらせると身動きとれずに、 飯も食べられなくなりますからね。大げさでなく、一人暮らしだと命に関わります。
体調を崩した理由は、あの安井戦でのメンタルダメージが大きいのでしょうか。
着信履歴
インフルエンザでないと診断された零は川本家に運び込まれていた。あかりが卵のお粥を作って出してくれる。
「梅干し平気?混ぜちゃうね。熱で口がまずい時もちょっとさっぱりするからね」
ひなたがタオルで汗を拭いてくれた。モモがピタリとおでこに冷えピタを貼ってくれる。
久しぶりに食事をとって人心地ついた零にあかりが言った。
「目白のおうちに電話しよう。きっと心配してるわ」
もう独立したのだからその必要はないという零。その言葉を聞いたあかりが、数日間充電の切れていた零の携帯を開いてみせた。着信履歴に並んでいるのは川本家からの電話よりも多い幸田父の名前。
「こんなに周りに心配させてるうちは独立したって言いません。でしょ?」
素直に頷いて幸田に電話をかける零。
「あの…お父さん。零です」
電話の向こうの義父の心配そうな声を聞いて、零は自分の浅はかさに気づかされる。
僕は馬鹿だ。ぐるぐるぐるぐる考えて… 。でも結局自分のことばっかだ。
三姉妹の手厚い看護のおかげで助かった零。こういう時は本当に人の情けが身にしみます。
幸田の心配にまですぐに気が回るあかりは大人ですね。まるっきり母親の視点です。
魔法のコトバ
川本家の居間。
起きてきた零が目にしたのは、 テレビで紅白歌合戦が流れる中こたつでうとうととするひなた、モモ、相米二の3人と猫たち。小さなコタツが満員状態になっている。あかりだけ一人で起きていた。
「こうなると思ったのよ、絶対。前はもっとすごかったの、今よりあと三人多かったから」
三人…?
母親と祖母と……お父さん。
(何か事情があるのだろう。この家の人はだれも父のことを語らない)
零のためにあかりが夕食のおかゆを準備してくれていた。
「梅干も崩して入れてね。熱があって味がわからないときでも口がさっぱりするから。…って、これさっきも言ったわね」
子供の頃、あかりが熱を出したときにいつも母親から言われた言葉。何度聞いてもホッとしたその言葉を、つい自分も繰り返してしまう。
「魔法のコトバみたいなものね、母親の。でも、モモはほとんど聞けずに終わってしまった。かわいそう…」
何と言っていいかわからない零は、改めて看病のお礼を言った。
「大晦日なんて大事な日に、家族でもないのに上がり込んでこんなにお世話になってしまって…」
「違うわ、私が来て欲しかったの。助かったのは私なのよ。あなたがいてくれなかったら、私きっと今ここで一人っきりで片付けながら多分泣いちゃってたわ」
零の目から涙がこぼれる。それを見たあかりも涙をこらえることができなくなっていた。
年賀状
夢を見ていた。いつものモノクロの悪夢ではなくカラフルな暖かい夢。
幼い零と妹が、母のタンスにシールを貼って怒られている。
「母さん…ちひろ…」
目を覚ました零の体は随分楽になっていた。熱もかなり下がったのを感じる。
今に降りてみんなと新年の挨拶を交わした。こたつに入って正月番組を見ながらお餅を食べる。ずっしりと広告の入った新聞に年賀状。正月らしい風景がそこにはあった。
「そうだ、零ちゃんちにも来てるかも年賀状。取って来てあげる」
ダッシュで零の家に向かうひなた。戻ってくると気まずそうに届いていた二通の年賀状を渡した。
一通は二海堂からのもの。
お城のような別荘を背景に、愛犬と二海堂の写っている写真だ。
「城?気球?… CG合成?」
もう一通は将棋連盟会長の神宮寺崇徳のものだった。満面の笑みで釣ったカジキを持ち上げている写真。
「会長…将棋は?」
神宮寺会長は、零が家を借りるときの保証人になってくれた人ですね。名人獲得経験のある一流のプロだったそうですが、写真からは気のいいおっちゃんにしか見えません。元旦にこの葉書が届くということは、ずいぶん早めに仕事納めして海外に飛んでいったようです。
夢で出てきた零の妹の名前が「ちひろ」と判明。千尋ちゃんかな。
伯母の美咲
あかりたちの伯母、美咲が訪ねてきた。皆にお年玉を配ると零にもポチ袋を差し出した。
「はい、ついでにあなたにも、将棋少年。ちょっぴりだけど」
さらに2つお年玉を取り出すと仏壇にお供えする。
「はい、お母さん、美加子。美咲が来ましたよ。あけましておめでとう、今年もよろしくね」
美咲に文句をいう相米二。いつまでもあかりをスナックで働かせておくことに抵抗があるようだ。
「あかりをこのまま家事と育児で閉じ込めて歳を取らせる気?あの子真面目だから、本当に母親役になりきろうとしちゃうわよ」
納得いかない顔の相米二に美咲は言った。
「週に2日、無理矢理でもいいからお化粧してきれいな服着せて外に出さないと。せっかくの美人なのに所帯やつれして、お嫁に行きそびれたらどうするの」
スナックのママをしている伯母の美咲が登場。かなりやり手の経営者とみました。口調から、あかり達の母のお姉さんみたいですね。
仏壇にお供えしたお年玉は二人分。ここにも父親の影はありません。
あかりを自分の店で働かせているのは、家にこもりきりになるのを防ぐためだったんですね。こういう点は女性でないとまず気づきません。
タンスのシール
夕食の食卓には、あかりとひなたが作ったおせち料理のお重が並んでいた。現代風の食材を使いながらも縁起のいい料理が詰まっていた。
「やっぱりこのお重箱見るとね、なんかこう埋めなきゃっていう気持ちになるのよね。で埋まったときの達成感がまたこうたまらないっていうか…」
あかりの言葉に賛同する美咲。達成感とめんどくささの狭間で思い悩む主婦トークがかわされた。
美咲が帰宅して時計が10時をまわった頃に、あかりが零に言った。
「ここ使うから2階に上がってくれる?」
ここを使う…?
あかりが居間の扉を開くと、隣がダイレクトに風呂場になっていた。庭の一部に無理やり増設した脱衣場のないシンプルな浴室。当然、着替えは居間でするしかない。
零は慌てて2階に上がり、布団に潜り込んだ。
ふと横のタンスに目をやると、可愛らしいウサギのシールが貼られているのに気付く。頭をよぎる妹の思い出。この家にいるととても落ち着く…。その理由が分かったような気がした。
零は数年ぶりに、深くて柔らかな眠りに落ちていった。
川本家の団らんと家族の温もりが染み付いた古い家が、零の心の奥に封じ込めた幸せだった頃の気持ちを呼び覚ましたようです。
それにしても現代風おせちは美味しそうですね。しっかりとゲンを担ぎながらも、子供でも食べやすいものを取り入れています。かまぼこは紅と白の両方買うと残ってしまう、なんていうところはリアリティがあります。
あと、扉一枚向こうが風呂だと湿気がスゴそうです。
まとめ
風邪でダウンしてしまいましたが、そのおかげで温かな家族のぬくもりを味わいながら年を越すことができました。数年ぶり、と言っているからには幸田の家ではそういう温かな気持ちにはならなかったんでしょうね。義父が優しくても、家族の手前それを素直に受け止めるのも難しかったのでしょう。
川本家の両親がいない理由はいまだにはっきりしません。お母さんが亡くなった理由もですが、お父さんの姿がないのにも込み入った事情がありそうです。なんとなく、今後父親が出てきていらぬ嵐を巻き起こしそうな予感がします。